「たばこを嫌いになる方法」
山 田 健 仁(静内町)
あれは、私が何回目かの禁煙に挫折した時だったろうか。茶の間で、満足感と敗北感に包まれながらたばこを一服吸っていると、妻がとうとう頭にきて、私にこう言い放った。「やっぱり駄目だったわね。どうせやめられないのだったら、我慢しないで1日に2箱でも3箱でも吸えば・・・」
私は本来、言い返せるような立場ではないのだが、妻にばかにされたのが悔しくて、つい意味のない反論をしてしまった。
「ばか野郎。1日に3箱も吸ったら気持ち悪いだろう」妻は何も言わずに台所に入っていったが、その背中が私を笑っていた。
それからしばらくして、妻が台所から勢いよく走りでてきた。その顔はまるで宝くじにでも当たったかのように、満面の笑みで覆われていた。
「ねえ、たばこって吸いすぎると気持がわるいものなの?」
「まあな」
「じゃあ、こんな方法はどう?あなたが1日に吸うたばこの本数をゼロか3箱にするのよ」
私は一瞬、妻が何を言っているのか理解できなかった。
妻は続けて言った。
「わかる?あなたは禁煙するのよ。そして1本でも吸ったら、その日は3箱吸わなければならないと言うルールにするのよ」
私はやっと妻の提案を理解した。そうか、もし1本でも吸ってしまうと、1日1箱もすわなきゃならなくなったら、これは結構きついな。と思った。
しかし、「何だかいけそうだな、それ」と私は言った。
「絶対いけるって。多分、あなたはたばこをやめるどころか嫌いになれるわよ。そうと決まれば、早速、今日から実行ね。はい、早く3箱吸いなさい。もう時間がないよ・・・」と妻は私にたばこを差し出した。もう8時だと言うのに、これからあと59本も吸えというのか。
「じゃあ、私あと2箱買ってくるから」
妻はたばこのお使いに、笑みを浮かべ喜んで出かけていった。近所の人が見たら、私が禁煙するためにたばこを買うといっても、とても信じてはくれないだろう。
その日、深夜12時過ぎに私はやっと3箱分のたばこを吸い終えた。冗談じゃない。4時間もほとんどたばこを吸いっぱなしの状態だ。
「おい、これはかなりきついぞ。うえ〜気持が悪い」妻は私の話を聞いているのかいないのか、信じられないことを言った。
「ねえ、これ、ちょっとしか吸っていないじゃない。これじゃ〜駄目よ。いつものとおり吸わなくちゃ〜」見ると、確かに半分以上残っているものが何本か吸い殻の中に混ざっていた。私は悲鳴を上げたくなった。
「わかった。わかったけど、今日は許してくれ。夜だけで時間も短かったしさ」
「そうね。でも次からはだめよ」
私はとんでも道を歩き出してしまったのだと、その時気付いたのだった。
さて、結果を話すと、私はそれから1ヶ月後に4回目の「3箱吸い」をしてから、たばこは2年間吸っていない。今になって思うと、結局あの苦しい思いを4回もしなければやめる事が出来なかったということだから、ニコチン中毒は恐ろしい。
これから禁煙をしようと考えている方に、私は自信をもって勧めます。ほんの少しの自分の意志と、鬼になってくれる協力者がいれば、たばこはやめることが出来ます。いや、嫌いになれますよ。
(目次のページへ)
昭和62年・平成10年禁煙週間事業
禁煙体験記懸賞募集入選作品集
2005年5月24日発行
発行者 北海道禁煙週間実行委員会 連絡先 札幌市中央区北4条西12丁目
北海道労働福祉会館4階
社団法人北海道衛生団体連合会内
電話 011−241−7924 編集人 黒木俊郎・鎌田慎一 |